現代日本における住文化の革新。「デザイナーズマンション」の意義と行方

優れた建築家が設計した優れたデザインの集合住宅を「デザイナーズマンション」と呼ぶようになったのは、1990年代後半ころからだろう。
この呼称は、その後、不動産業界のDCブランドのように広告紙面をひとり歩きするようになり、いつの間にかその本来の意味は薄れていってしまう。その一方で、打ち放しコンクリートで吹抜け空間さえあれば、あるいは多少個性的なデザインであれば、なんでもデザイナーズマンションと呼ばれるようになっていく。だから、この呼称を、商業主義にまみれて軽佻浮薄だと思う建築家は結構多い。
いまや誰もが知る憧れのデザイナーズマンション、現代日本の住文化においてその登場の意義と行方について考えてみよう。

現代日本における住文化の革新。「デザイナーズマンション」の意義と行方

設計者の横河健氏、共用部にて。吹抜けから光が差し込み、突き当たりのガラス窓から代々木公園が望める

日本の住宅の空き家率がついに10%を超え、首都圏に巨大なメガマンションが林立し始めたのもまた1990年代後半ころである。空き家が増えているのに、新築マンションが大量に建設されて好調に販売される。それは、分譲マンション等の商品化住宅が、高品質で高性能な居住空間へと進化し続けている証しだろう。
バブル経済崩壊や阪神・淡路大震災の体験がいまださめやらぬ1990年代後半、住まい手であるユーザーは、地震に強く、資産価値が下がらず、家族皆が安心して暮らせる住まいを強く求めていたに違いない。それに応えたのが、耐震構造や住宅設備の最先端技術を搭載した新築マンション、特にスケールメリットを活かした数百戸規模のメガマンションだった。ユーザーは、巨大な新築マンションに「安心感」を求めたのである。

現代日本における住文化の革新。「デザイナーズマンション」の意義と行方

美術館のような佇まいの代々木の杜パークマンション。1998年築、総戸数は18戸の小規模マンションだ

そして、デザイナーズマンションもまたこのころ登場する。ひとりの建築家が創造する優れたデザインを付加価値とする集合住宅、それがデザイナーズマンションだ。優れたデザインだからこそ、時を重ねて暮らし継がれるほどに住まいは味わいを深め、資産価値を高めていく。時とともに、最新技術は古くなるが、優れたデザインは渋い輝きを増し資産形成の源となる。
日本の不動産業界では、土地に比べると建築の資産評価はとても低く、建築デザインにも資産価値が認められにくい。それが、現代日本の住文化の現実である。それに一石を投じたのがデザイナーズマンションであり、その住まい手は建築家が丹精をこめて設計したマンションに、日々の心地よい暮らしはもちろんのこと、新たな資産価値形成の可能性を期待したのではないだろうか。

現代日本における住文化の革新。「デザイナーズマンション」の意義と行方

1 階住戸は大きな庭付きテラスのある間取り。白樺の木々が大きく育ち緑の風景を楽しむことができる

さて、ここで、これぞ正統派デザイナーズマンションをご紹介しよう。
代々木の丘の斜面に立つ「代々木の杜パークマンション」である。設計者は建築家・横河健氏。1998年の竣工だから、まさにデザイナーズマンションの先駆的な建築といっていい。
このマンションに暮らす横河氏の友人宅を訪ねる機会があった。このときほど、上質な暮らしは上質な住まいから生まれるということを深く実感したことはない。専用庭のウッドデッキと一体となった室内には、上質な北欧家具がさりげなく置かれ、穏やかな木漏れ日が満ち、そこにしかない心地よい空間が広がっていた。共用部では、天空から清々しい光が中廊下に降り注ぎ、遠くに代々木公園の緑が見え、どこにいても「代々木の杜」に居ることを実感できる。
至る所すべてがきめ細かくデザインされたこのマンションを、珠玉の建築作品といっていいだろう。常に経済的合理性を求められるのが、分譲マンションの宿命だ。事業主であるデベロッパーと建築家との間に生じるさまざまな葛藤を乗り越え、この建築は実現されたのだろうと容易に推測される。
いま、不動産業界が必要としているのは、こうしたデベロッパーと建築家との見事なコラボレーションであり、建築の資産価値を確実に高める正統派デザイナーズマンションの実現ではないだろうか。現代日本の住文化の革新と向上は、そこから始まると思う。
(SUMMO)