湾岸タワーマンションに、「町内会」的コミュニティが生まれたワケ

これまでのマンション選びの検討材料といえば「価格、広さ、設備、立地」といったスペック関係が中心でした。しかし最近ではそこに「コミュニティ形成」という軸が新たに加わった感があります。つまり、「そのマンションに住むことでどんな交流ができるのか?」という観点。ベタベタな近所づきあいは苦手でも、災害など有事の際に支え合える仲間が近くにいるのはきっと心強いはずです。

東日本大震災以降はとりわけ、こうしたコミュニティ形成の仕組みづくりがマンションを供給する側の不動産会社にとっても大きな課題となっているわけですが、住人たちの自主的な取り組みによって、理想的なコミュニティをつくりあげてしまった大規模タワーマンションが都心にあるとか。それも、高級物件には珍しく、「昔ながらの町内会」的な血の通った交流が育まれているとのことなので取材してみました。
マンション管理組合主導で、入居者同士のあいさつイベントを開催

豊洲駅から徒歩約10分の「プラウドタワー東雲キャナルコート」。東京湾岸エリアに林立するマンション群の中でもひときわ目を引く、全600戸の超高層物件です。エントランスをくぐると、コンシュルジュつきのフロント、高級ホテルのようなロビー、毎朝焼き立てのパンがサーブされるカフェスペースなどなど、そこかしこにハイソサエティなムードが。
一見、温かい近所づきあいとは対極にありそうなクールな趣なんですが、すれ違いざま笑顔であいさつを交わし、エレベーターに乗り合わせれば世間話に花が咲くなど、住人の多くが顔見知りといったご様子。

何を隠そうこのマンション、2013年4月竣工という、できたてホヤホヤ。東京湾岸エリアで東日本大震災以降にはじめて販売された物件とのこと。だからこそコミュニティ形成に対する意識も高いのでは? と編集部も注目していたのですが、思った以上にしっかりしたコミュニティが醸成されているようです。 その秘訣を探るべく、同マンション管理組合の副島規正理事長にお話をうかがってみました。

「じつは入居1カ月後の5月末に希望者を集めて『あいさつ大会』と称した自己紹介イベントを開催したんです。入居のあいさつを一度にやれたら合理的ですし、そこで顔見知りをつくっておけばその後のコミュニティの構築や防災にも役立ちます。マンションの集会室を使い2日間に分けて実施しましたが、280世帯720名が集まるなど大盛況でした。入居間もない段階で、多くの住人がこうした出会いの場を持てたことは大きかったと思います。タワーマンションの住人って個人主義が強いように見られがちですけど、実際はご近所と仲良くなりたい、交流したいと考えている人も多いと思うんです。震災もありましたし、いざという時に頼れるのはやはり遠くの親戚より近くの他人ですから」
震災時の苦い経験から、コミュニティの重要性を痛感

副島さん自身、以前に住んでいたマンションで震災を経験。その際に、コミュニティ構築の重要性を強く感じたそう。

「前のマンションには10年住んでいたのに、顔と名前が一致するのは両隣の人だけ。ショックでしたね。そこで、『最低限、同じ階と上下階のフロアの住人同士くらいは顔と名前を一致させること』を目標に、同マンションの管理組合立ち上げと同時に、理事長に立候補しました」(副島さん)

まずはあいさつ大会でコミュニティの土台をつくり、その後も月数回のペースで交流イベントを矢継ぎ早に実施。同郷の住人たちを集めた県人会や、フロアごとの懇親会も立ちあがるなど、副島さんの目論見通り、血の通ったご近所づきあいが生まれている模様です。

なお、こうしたイベントのアイデアはすべて副島理事長の発案。思いついたそばから理事会にかけ、即実行しているとか。個性的なリーダーを長とする組織はとかくワンマンになりがちですが、そこは脇を固める30代を中心とした若き理事会メンバーが副島さんをサポートしつつも、一人で突っ走ることのないようしっかり意見を述べ、押さえるところは押さえているそうです。
住人の暮らしをより良くするための、さまざまなカイゼン

さて、副島理事長率いる理事会の取り組みはこうしたコミュニティづくりだけに留まりません。時には共用設備の利用状況などにも目を光らせ、課題があれば速やかに解決する。トヨタでいうところの「カイゼン」というやつですね。例えば、ほとんど利用されていなかった共用のAVルームにカラオケを導入したところ、利用率が飛躍的にアップしたとか。

「それまで月2〜3件しかいなかった利用者が、カラオケ導入後は100件を超えました。カラオケ利用料はかなり安く設定していますが、今のところ機械のリース代を支払ってもおつりがくるほどの人気ぶりですね。この浮いた分のお金は理事会で話し合い、住人のために使用するようにしています。この前は、カラオケの『売り上げ』でフィットネスルームに新しいマシンを入れました」(副島さん)

カラオケの利用状況は毎日データをとり、稼働率が下がったらすぐに対策を立てるそう。ほかにも、共用のフィットネスルームは出勤前や会社帰りでも利用しやすいよう開放時間を拡大。回数券や定期券のシステムを導入するなどして、利用者を2倍以上に増加させた実績も。
もはやマンション組合長の粋を大きく超えた経営者のようなスタンスですが、副島さんの本職がコンサルタント業と聞いてそれも納得。
さらに、マンション内でドラマやCMの撮影が行われる際にも管理組合が出張ります。

「マンションのブランド価値向上につながるような撮影は基本的に歓迎なのですが、業界関係者の中にはマナーの悪い方もいて、共用部を汚していくこともあるなんて話も聞きます。そこで、撮影の前には必ず覚書を交わし、ルールを守ってもらうようにしています。撮影当日は理事の誰かが監視役でつき、設備を雑に扱ったり、住民に失礼があったりした場合には即中止。そこまでやる組合は他にないと思いますが、おかけで今のところマナー違反やトラブルはまったくないですね」(同)

これまで、半年間で2度のドラマ撮影が行われたそうですが、ノートラブルでつつがなく終了。それどころか、出演俳優と入居者の集合写真撮影も理事長が交渉し実現。住人は大喜びだったとか。

一般的にマンション管理組合の理事というと、持ち回りでの当番制で、順番が回ってきたらイヤイヤ参加するといったイメージではないでしょうか。そんな形骸化した組織とは対極にある今回の事例。意欲とアイデアにあふれるリーダーと、それをしっかりサポートする体制があれば、こんなにもポジティブな組織になるものかと唸らされました。

考えてみれば、住人が主体的にマンション運営に携わることができるのが管理組合の良さ。不動産会社や管理会社まかせにせず積極的にかかわっていくことが、結局は自らの暮らしを向上させる近道なのかもしれません。
(SUUMOジャーナル)